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雑記やら妄想の切れ端やら好き勝手やってみた、結果と言う名の残留思念。
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:音楽教師せっさん。ご当人様サイド。:

都内の高層住宅地の一角、さらにとある1フロアの一室に、彼らは居た。
リフォーム済みの其処は寝室が二部屋と業務用の冷蔵庫も余裕で置けるシステムキッチンと続きのリビング、
バスとトイレ、防音設備もばっちり整った本格的なスタジオが設けられている。
之が個人資産―しかも、所持している内の極々一部―と言うのだから、一般のバンド活動に身を窶す心情としては有難いのだか、嫉ましいのだか複雑な心境にもなろうと言うもの。
尤も、彼らの場合―家主を抜いて全員が、単に『練習の為のスタジオ代が浮いて助かる』ぐらいの認識しかしない大物振りを現在進行形で発揮中である。

か、ちん。か、ちん。

楽譜が散らばる机を爪弾く白い指先と、規則正しくリズムを刻むメトロノーム。
隅々までハウスクリーニングされた場所には不似合いの、少々古ぼけた型のドラムセットと、立てかけられた数本のギターとベース、各種アンプに、打ち込み用と思しき端末とシンセサイザーが三台程。
その脇に置かれた、パイプ椅子と簡易テーブルに二人の男が向き合い、それぞれ腰を落ち着けていた。
金銀妖眼が固唾と見守る中、刻まれた音符を追う双眸はレンズ越しにも強く美しい煌きを放つ。
「・・・君にしては上出来だ」
眺めていた最後の一枚を放り投げ、傲岸不遜に言い捨てた傾国の美貌の主に、アレルヤは困ったように微笑した。
「ありがとう。歌詞はお願いできるかな?ああ、好きにアレンジしてくれても構わないから」
「愚問だ。このまま君やハレルヤに任せては二束三文の陳腐で甘ったるい恋歌になる」
「・・・・・・あはは、否定しないよ」
嘗ては銀の片目のみを露わにしていた頃の名残か、金眼に覆うように手を添えて、アレルヤは然して気にした風も無く同意する。
確かに己や粗暴なように見えて存外優しい片割れが作る歌は、年代にして十代二十代の多く―特に女性層が好むだろう作風だからだ。
反面、眼前の性別不明の佳人たるティエリアが手懸けるものの大半がメタルやパンク、ロック調がベースなのだから面白い。
元々クラシック畑の人間らしいから、ある種解りやすい転向と言えなくも無いが。
ラッセがポップス、ジャズ、カントリー、フォーク等と見た目に反して手広く、また割とソフトな曲調を好むのも、意外性に富んでいると言えるだろう。
さて、残るメンバーの刹那と言えば・・・。

「・・・・・・・・・すまない、遅れた」

片手にコンビニのビニール袋と大き目の紙袋を携えて、登場した。
片耳のみ差し込まれたイヤホンから何処ぞの電気街御用達の電波ソングが洩れ出ているかと思うと、今や若い奥様方の方が夢中な特撮ヒーローものに変わり、次いでトラッドやバロック、アニメソング、トランス、歌謡曲等が無作為に流れ出す。
まさしく、聞ければよいのでは無いかと邪推されても仕方の無い節操なし具合である。
「・・・いや、大丈夫だよ。それより、来るまでの道、混んでたろう?ごめんね、買出しまで頼んで」
「問題ない。ティエリア、これで良かったか」
ビニール袋から一本だけ抜き出し、他はアレルヤに任せて刹那はティアリアへペットボトルの紅茶を手渡す。
「マリナからも弁当の差し入れを受けた。受け取ってくれると助かる」
「そうか、有難く頂こう」
「わーこういうのも久しぶりだねぇ。お姉さんにご馳走様でしたって伝えてくれるかい」
紙袋の中に楚々と鎮座ましました淡色の風呂敷包みを確認し、ほわりと笑んだアレルヤに釣られて、刹那も表情を和らげた。
「了解した」
目当ての品を抜き取り、残りを冷蔵へと向かったアレルヤを見送り、刹那は机にばら撒かれた楽譜の一枚を手にして眺める。
ティエリアはその様を斜め下から見やりつつ、多分に愉悦を含んだ口調で問うた。
「リクエストがあれば伺うが?」
「特には無い。」
「――ふむ、了解した。『飛べる』ほど刺激的にしてやろう」
そういう曲風も好きだろう―と見上げてくる緋色の思惟は深い。
ほんの数ミリ眉尻を下げた刹那に、ティエリアは何がお気に召したのか、嫣然と微笑むばかりである。
「・・・・・・・・・・・・」
「そんな目で見ないでくれ、私は真面目に言っている。」



「―――四年だ」


「――四年も過ぎているんだ。いい加減、私とて振り切れた」
彼が落とした囁きに添えたのは苦笑だった。
刹那は取り繕う為の言葉も思い浮かばずに、ゆるく瞳を閉じた。
「・・・・・・ティエリア」
滑稽なほど苦味ばかりが滲む刹那の呼び掛けを、名指しされた彼は哂いはしなかった。
少しばかり苦笑の色合いを変え、まるで稚い子を見る仕草で立ち尽くす青年の腕をあやすように柔く叩いただけだった。

**** **** **** ****

時間にして15秒足らず─。
彼等の復活の狼煙に世界の一部が驚喜に沸いた。

『─23XX/XX/XX─』

漆黒の画面に浮かび上がる期日。
其処から始まるモノクローム式の映写機を模倣してだろう…コンマ刻みに入れ替わる複数人の画像。
時折混じるノイズの中で各々がドラムを背後に、ベースを片手に、ギターを爪弾きながら、楽譜と睨み合いつつ─と続いていき、最後に瞑目した侭―恐らくはヴォーカルと思しき―最後のメンバーがアップで現れる。
此処で一旦暗転がもたらされる為、初見の多くが『終わりか?』と勘違いを起こす。
次の瞬間─。
開かれた瞼から覗く、七色に輝く不可思議な虹彩だけが酷く色鮮やかなヴォーカルのアップが再度、映し出される。

──「……『OO』。」──

肉付きの薄い唇から零れ落ちた、ぞわりと背筋を粟立たせる玲瓏の一声。
視聴者が衝撃から立ち直る前に、横合いから介入してきた手がカメラの視界を強引に遮ってしまい、『―再臨―』の文字が表記された砂嵐画像へ移行して、今度こそ一連の幕引きとなる。

インディーズバンドのカテゴリで某動画系コミュニティにひっそりと掲載されたそれは、瞬く間に再生数を伸ばしていく。
期日まで後3ヶ月だか2ヶ月だかが過ぎた頃、あるユーザーが気づいた。

『カウントダウンが刻まれている』

日数が縮まる毎にランダムに画面に埋め込まれる数字達。
最初は単なる目の錯覚では―と真に受けなかった大多数も、真実であったのだと思い知らされる事となる。
数字が一桁になる頃には背景一面を数字で埋め尽くされ、期日の5日前になると日を追ってメンバー達の肌に
一際目立つようにか、カラーで刻印されていく。
ドラマーの開いた胸元に『05』。
ベーシストの左腕に『04』。
鏡写しの位置に、詰り右腕に『03』とあるギターリスト。
楽譜の人物は『02』と背―右の肩甲骨―に負って。
終に瞑目した状態のヴォーカリストへ頬に『01』が記される。

――某月某日。
「・・・・・・随分と手の込んだものを作ったんだな」
「いや、僕としては十分シンプルにした心算だが?」
「――このむっつり。てめぇのセンスは相変わらず一貫して地味派手かよ」
「ねぇ、これ、後でデータ欲しいんだけど・・・・・・」
「その申し出は予測済みだ。後でカンストまでを編集したのをくれてやる」
「・・・・・・時間だ。行くぞ」
何万、何十万回と再生された暗転の場面に、凛と『00』が刻まれた瞬間、都内某所にてそんな会話があった
なぞと知るものは極々僅か・・・。

「・・・・・・・・・『00』、再演を開始する。」

一つだけ点されたスポットライトの中。
機材と演奏者で溢れかえる狭い狭いライブステージの中央の彼が、いっそ傲慢なまでに厳かに宣言を下す。
競うように次々と眠っていた他のライトが暗闇を照らし出し、ステージ上のセットされたスクリーンが『Mission-code Re:start!!』のゴーサインを弾き出す。
天井を砕かんばかりに響く観客たちの狂喜の喧騒を先導に、会場内の総てのスピーカーから音が疾駆した。


*****************************************************


某月某日より、数日前の出来事。

「……ライル。少しいいか?」
「んー?クラウスか。いいけど、どうしたんだよ」
「あるバンドのライブチケットなんだが、貰ってくれないか」
「―――『00』?バンド名かこれ?『2枚』っつー事は、シーリンか」
「ああ、どうにも都合が付かないらしくてな」
「ご愁傷様。これ、有り難く頂くよ」

「そうしてくれると此方も助かる。――そうだ、因みに其れそのムービーのバンドの、だよ」
「は?」
「一時解散していたらしいんだが、復活するそうだ。じゃあ、また」

「……え、マジでか?!ちょ、ちょっ、クラウス?!!その話詳しk……って、居ねぇーーーー!!?」
 

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